診療案内

胆道領域

胆道がんについて

肝臓で作られた胆汁の通り道のことを胆道といいます。これには胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部が含まれ、ここに発生した悪性腫瘍が胆道がんです。日本のがん統計では、胆道がんは年間2万人以上が新たに診断され、約17000人が死亡しております。全がん腫の部位別死亡数では男性・女性ともに8位であり、決して珍しいがんではありません1)。70歳代、80歳代の高齢者に多く、胆管がんと乳頭部がんは男性、胆のうがんは女性に多い傾向がみられます。最近では印刷業で使用される化学物質(ジクロロメタン、ジクロロプロパン)との関連が報告されています。胆道がんは、発生した部位によって胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がんに分けることができます。

胆管がん

胆管がんはその発生場所により肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんに分けられます。いずれも胆汁が流れにくくなるため、黄疸(皮膚や目の白い部分が黄色くなること)が出現します。診断を確定しがんの拡がりを知るために、内視鏡的逆行性胆道造影(ERC)が行われ細胞や組織が採取され、黄疸に対する治療として胆管ドレナージが行われます。また、がんと血管との位置関係や浸潤の程度や転移の有無を見るためにMDCT(マルチスライスCT)検査が行われます。これらの検査により、臨床病期(がんの進行度)が明らかとなり、治療方針が決定します。

転移がなく、病変の切除が可能であれば、手術が最も治癒が期待できる治療方法です。胆管がんでは決まった手術術式といったものがなく、がんの場所、広がりに応じて手術術式が決定します。一般的には肝門部領域胆管がんの場合は肝切除と胆管切除が行われ、遠位胆管がんの場合には膵頭十二指腸切除術が選択されます。いずれも肝胆膵外科学会の定める高難度手術に分類されるものです。高難度手術は手術症例数の多い『ハイボリュームセンター』で、合併症発生率が少ない傾向があり、合併症発生後の管理も優れているため、術後死亡率が少ないことが知られています2)。また肝臓全体の65%以上切除する必要がある肝切除術では、術後の肝不全の危険性を低減させるため、術前に切除する側の門脈血流を止める処置(門脈塞栓術)を行います。このような術前処置も駆使し、少しでも安全な手術と長期生存を得るために必須な完全切除を目指します。

肝門部領域胆管がんの手術例 
(胆管切除を伴う拡大肝右葉切除術)

遠位胆管がんの手術例
(膵頭十二指腸切除術)

胆嚢がん

胆嚢がんは、進行すると治療が困難ながんの一つです。自覚症状や初期症状が乏しいため、発見されたときには、周囲の肝臓、胆管、十二指腸、膵臓、大腸など重要臓器に浸潤している場合が多いからです。胆嚢がんを引き起こす特定の原因はまだ明らかではありませんが、胆石症や胆嚢腺腫、膵胆管合流異常症が発がんに関連していると言われています。胆嚢がんは局所進展度とリンパ節転移の程度から、4段階の進行度(ステージ)に分けられます。ステージ1はがんが粘膜や筋層にとどまるもので、胆嚢摘出術だけでの完治が期待できます。しかしながらステージ2以上では、がんは胆嚢周囲まで広がるために、周辺臓器の合併切除が必要となることが多く、手術も大きなものとなります。そのため、がんの拡がりと切除臓器、全身状態などを十分に検討して手術適応を決める必要があります。超音波内視鏡検査(EUS)、MDCTなどによる十分な術前評価の上、過不足のない手術を提供できるよう、消化器内科や放射線診断医、病理診断医との連携も重要です。

早期の胆嚢がんの手術例
(胆嚢摘出術)

進行した胆嚢がんの手術例
(胆管切除を伴う拡大肝右葉切除術)

乳頭部がん

十二指腸乳頭部とは胆汁の通り道である胆管と膵液の通り道である膵管が合流し十二指腸に開口する場所です。乳頭部がんはこの膵管と胆管の合流部である乳頭部に発生する悪性腫瘍です。比較的症状(黄疸、膵炎による腹痛など)が出やすいために、胆管がんや胆嚢がんと比較すると早期に発見されるという特徴があります。乳頭部がんに対する標準的治療は手術による切除です。手術術式としては、膵頭十二指腸切除術が標準的で、十二指腸、膵臓の頭部、下部胆管、胆のうを切除します。残った胆管は小腸に、膵臓は小腸や胃などに吻合します。乳頭部がんは、膵臓、胆道領域のがんの中では比較的予後良好ながんですが、がんの進展度により予後は著しく異なります。がんが膵臓の実質まで浸潤している場合は膵臓がんと同様で予後不良とされています。またリンパ節転移陽性、神経への浸潤、血管・リンパ管への浸潤なども予後不良の因子として報告されています。外科的治療が行われた後、病理組織検査にてこれらの予後不良因子を認める場合は慎重な経過観察が必要となります。

乳頭部のシェーマと内視鏡像

乳頭部がんの手術
(膵頭十二指腸切除術)

胆道がんに対する手術

手術による完全切除が最も有効な治療であるため、上記のとおりがんの拡がりに応じた手術術式が選択されます。膵頭十二指腸切除術や胆管切除を伴う肝臓の片葉切除術が一般的ですが、がんの拡がりによっては、これら2つの手術を組み合わせた肝膵同時切除を行うこともあります。ただし手術侵襲も大きく、専門施設(高度技能専門医修練施設)においても約5%程度の周術期死亡の報告もある3)ため、患者さんの年齢や併存疾患の状態、日常生活の制限の有無や程度などから慎重に適応を決定する必要があります。

何がすごい!福島県立医科大学 肝胆膵・移植外科

  • 当科では年間50例以上の肝胆膵高難度手術を扱う高度技能専門医修練施設Aと認定された県内最大の『ハイボリュームセンター』です。
  • 国内の手術症例データベースであるNCD(National Cancer Database)4)を用いた分析でも、当科の膵頭十二指腸切除術および肝切除の手術関連死亡の発生率は、全国平均やリスクモデルより算出される予測値よりも低い水準に抑えられております。
  • 消化器内科や放射線科、腫瘍内科などの関連診療科と連携をとりながら、定期カンファランス(キャンサーボード)を開催しており、多角的な視点から患者さんの安全性を担保し、より根治性の高い手術を目指しています。
  • 肝移植術から得られる技術を応用した、高度な医療を提供しています。下大静脈内腫瘍栓摘出や小動脈血管吻合も日常の手術として行っており、多くの経験があります。
  • 2021年より低侵襲手術としての腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術も導入しました。現時点では良性もしくは低悪性度腫瘍症例に限定して行っていますが、手術実績が増え、かつ治療成績が安定した状況が確認されれば胆管がんや乳頭部がんの症例も適応とする予定です。

出典

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